165 浅草のある店で 2013.7月号掲載
浅草の街を飲み歩いていると、浅草は一見時間が止まったかのような装いを見せますが、古きも新しさもあり、スカイツリーも見えて、鯨も泥鰌も食べられて、洋食も食べられて、世界中からの人ごみと雑踏が押し寄せる不思議な街です。
そんな不思議な街でも異彩を放つ通りが誰が付けたか「ホッピー通り」で、透明のビニールの入り口を持つ店がずらりと並んでいます。
その中のお気に入りの店でニンニクの醤油漬けをつまみに飲んだ後に、空いていれば必ず行く中華料理屋があります。空いていれば行くとは、気まぐれ的に休んでいるときが多いように思います。
そのお店でいつも必ず見る風景が、店主が従業員の彼を叱る場面です。
料理を作るのは店主なので、彼は横で、チャーハンの注文が来ればお米と刻んだ野菜と卵を用意しなければならないのですが卵を忘れて叱られます、「いい加減に覚えろよ」と。
「確かに、そうだな」、そう私はつぶやきます。
私がこの店に来たのは大学生の頃なので、もうかれこれ30数年経っていますが、この店主と従業員の間柄は変わらずに時間が止まったかのような関係です。
彼はいつもテンパっていて、この30年間ニコリとも笑ったところを見たことがありません。
ラーメンをお湯から出すときも、どんぶりを洗っているときも、一所懸命です。
でも、彼の洗ったコップはネギの切れ端が付いていたり、彼の焼いた餃子は中身が出てしまっていたりで、また店主に怒られます。これでいいんだなdc、浅草は。