②父の形見の時計
マラソン大会事務局のマニュアルを読むと、スタートの遅くなるJ組は、荷物を預けてからスタート までの時間が1時間はかかるので、真冬の朝に立ったままで1時間耐えるような服装を着てくださいと書いてあった。当日の朝、「何を着こもうか、カイロも貼 り付けようか」と迷っているうちに時間が経ち、宿泊先のホテルをあわてて出たら、腕に時計を付けるのを忘れてしまった。時計がないと走行時間が分からない ので会社に寄って1月に亡くなった父親の形見の時計をポケットに突っ込んで持っていった。物欲が全くなかった父なので、安っぽいグレーのGショック だ。ところが、荷物を預けて左腕を見てみるとそこには忘れていたと思っていた時計があった。あれほど携帯荷物を軽くしようと考えていたのに、時計が二つに なってしまった。 「そうか、親父も来たか」、普段は親父などと言わないのに、「親父も一緒に走るのか」とウエストポーチのヒモに親父の時計を巻いて一緒に走った。なんと はなしに空を見上げると、青い空にぽっかりと心配顔の白い雲が浮かんでいた。

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